生命体エナジー循環と体軸(その1)
――そこに至るまでの軌跡――
ここで紹介する文は、『日本ホリスティックコンディショニング協会』の会員専用ページに、以前 掲載していたものを、加筆訂正したものです。
『その道を学ぶものは、その道を好む者に如かず』
『その道を好むものは、その道を楽しむものに如かず』
という孔子の言葉があります。まさに至言です。
私はその昔、筋肉に関して とことん追及しようと考えて―――
まだNSCAジャパンが設立されるかなり前から、米国の「NSCAジャーナル」やACSM関連の{スポーツ・メディスン}などの雑誌や、筋トレに関わる書籍などを定期購読していました。
現在のNSCAジャパンが組織されると、参画して10年間理事を務めましたが、『ピリオダイゼーション』や『最新システム/メソッド』などを含めて、目新しいものは少なく、少々倦怠気味であったのです。
海外から招聘されるゲストの講演内容なども
●さらに新しい知見はないのか
● コンディショニングの定義を もっと広げて対処した方法はないのか
と期待しながらも、毎年お決まりのパターン化した内容に、コンディショニングの限界を感じていたのです。
その限界とは、
● なぜ筋が抑制弱化するのか
というその理由が、よく理解できないでいたからなのです。
「筋肉」に関しては、「エキスパートになる!」との思いが強く、その肝心の理由が解らないまま、時間が過ぎ去っていきました。
その彼の示す筋機能についての一連のシステムが、書籍を読むだけではよく理解できなかったのです。
私は愕然となって、(自分の専門分野である)筋肉の機能が抑制弱化する現象を解明するには、それを理解するためのベースとして、カイロプラクティックを勉強する必要があると感じ、カイロの専門学校に入りました。
漠然と、自分の人生の後半は、安定した仕事を投げ打ってでも
「やりたいことをやる!」
と決めていたので、本職は多忙でしたが、入校することに躊躇はありませんでした。仕事をしながら、専門学校に通ったのです。
私の周りは「手に職をつけて開業できるし、未来は明るい」と勝手に決め込んでいる人が多くいました。
現在の仕事を止めて、独立開業して・・・・そんな夢をもって高い授業料を支払ったのであろうが、たちまち挫折して消え去った人も少なくありませんでした。
骨格や筋の名称も満足に知らない人が、予備知識もなく独立開業できるほど、甘いものではないことを、身をもって知ったと思われます。
治療系の仕事に関わる専門学校の卒業生の、およそ毎年1割が開業します。
しかし、毎年1割が閉鎖・撤退しています。
授業内容は、当然ながらディバーシファイド・テクニックといわれる典型的なカイロ・テクニックを学ぶことでした。
カイロのテクニックを教える内容ではありますが、実際にアジャストのスラストをさせることは、リスクを伴うことから行いませんでした。
実際の治療では「緩和系マッサージ」で、筋をほぐして、気持ちよくさせて、後は関節を 5分間程度ボキッバキッとやるスタイルが主流でした。
患者の身体に触れるには、緩和系マッサージを身につけなくてはならない。皆一生懸命にマッサージ系のテクニックを行なっていました。
だが、マッサージでは 筋の抑制弱化の根本的な改善はできません。
ほとんどの方が 緩和系マッサージテクニックの習得を目指していましたが、私は、当初から体軸を正常化できるテクニックの習得以外には、まったく興味を持たなかったのです。
私一人が どうやったら人の「身体を正常化して、筋機能を回復させることができるのか」ということに焦点を合わせていたのです。(そのため、インターン実習と称する期間、最後まで実際に患者に触れることなく終っています)
同期の受講生の多くは、明らかに「その道を学ぶ者」であり、今の仕事に不満があるので、手に職をつけたいとの一心であるが故に、「その道を好む者に如かず」となっていた、と思われました。
仕事として報酬を得んがために、筋肉の起始・停止を覚えようとするので、明らかに好きでもないことを仕方なく憶えなくては・・・・という意識が働いていました。
これでは脳に情報がインプットされていかない/されにくいということが、感じ取れていました。
好きでやっている人と、好きでもないのに手に職をつけておけば生活に困らないだろう・・・・程度の、甘い考え方で学んでいる人との相違は、誰の目にも明らかになっていったのです。
この人は「残念ながら この仕事には向いていない」「この人は学ぶ姿勢が違うから、モノになるだろう」という観察は、自分の中で出来上がっていました。
自然とカイロが好きなもの同士は「場」を形成しており、一方、現在の自分の仕事に不満があって、その解消の手段の一つとして、カイロを学んでいる人たちの「場」も形成されていました。
そして―――
カイロの専門学校の指導者が、仙腸関節から脊椎までをボキッバキッとやっても、筋の抑制弱化が正常化できていない現実を見て取れるようになってくると、何かが違うという疑問が大きくなっていったのです。
また、カイロの授業においては、最後まで実際に『スラスト』といわれるアジャストのテクニックは、身体を痛める危険があることから、行うことはなかったし、行なわせなかったのです。
その当時、カイロ・テーブルに向かって、受講生たちは高速スラストをみんなひたすら行なっていたことを憶えています。
私は、テーブルに向かっていくらスラストしても、実際の人体を相手にした感覚とのズレの相違は大きいし、
□ 特異性の原則
というトレーニングにおける大原則が常に頭の隅にあるので、
「これでは、スポーツの現場では使えない。実際に人体にアプローチしたアジャストの感覚を身につけない限り、実用性がない」と考えていました。
実用性がないという思いから、達成感が常に得られないという状況に陥っていたのです。
カイロの専門学校では、残念ながら「人を正常に治して、体軸をとる」という達成感は、最後まで得ることができませんでした。
達成感がないので、「その道を好んで」学んでいるつもりであっても、「その道を楽しい」と実際に思えることがなかったのです。
このことがあって、現在のホリスティック・コンディショニング講習では、「毎回必ず体軸を正常に回復させる」という実践テクニックを、最重視して実行していくことに繋がっています。
後に、私は典型的なディバーシファイド・テクニックといわれるカイロ・スタイルは捨て去ることになりました。
それは
◆ 身体が(脳が)求めている刺激は、シンプルで最小限のものである。
◆ 過剰な刺激は、体軸を崩す要因となり得る。
◆ どのようなテクニックであろうと、要するに身体(脳)が求める最適な刺激とは、身体の自然治癒力を高めるものであって、体軸が正常化するものである。体軸が正常化しないテクニックは、身体(脳)が受け入れない。
という基本となるポリシーが確立できたからです。
体軸を正常化するものと、正常化しないもの―――という視点で多岐にわたるテクニックを診てくると、
ボキッバキッというオーソドックスなカイロ系テクニックは、最適な刺激を身体に与えるものではない、という判断ができていました。
高速スラストで行なうアジャストは、細胞レベルではマイナスの要因となり得るという研究があるし、実際に頚椎の高速スラストでは、訴訟にいたる問題が続出して、本場のアメリカにおいても他のテクニックに切り替える傾向があるといいます。
一例を挙げると―――
◆ 内側性の腰椎ヘルニアは、ランバー・ロールといわれる腰を捻って、呼吸に合わせてアジャストする典型的なテクニックを用いることは、危険性が伴うのでやめた方がよい。 外側性の腰椎ヘルニアならOKである。
◆ 脊柱管狭窄症はカイロプラクティック(デバーシファイド・テクニック)では禁忌である。医者の範疇である。
このように、私は専門学校で教わったのです。
今では、内側性腰椎ヘルニアであろうと脊柱管狭窄症であろうと、まったく調整するのに問題はありません。
それを引き起こしている原因さえ掴めれば、対処できるし、対処することが我々に与えられた使命であると考えています。
実際、このような症状を示す多くのスポーツ選手を、現場で対処してきたし、それなりに満足できる結果を得ています。
多くの治療系テクニックを学んでいく上で、
技術解説書に示されるテクニックは、万人に効果があるわけではなく、個々に適応したテクニック/アプローチが存在する。
ということが理解できていたので、
「実用性のあるテクニック」と「実用性のないテクニック」を見極めることができるようになったのです。
スポーツ現場では、速効で身体を修正して、体軸を正常化してエクササイズを問題なく行えるコンディションに導かなくてはなりません。そのための実用性のある最適な方法を探っていくことになったのです。
『その道を好む者は、その道を楽しむ者に如かず』
この言葉通りの心境であった―――と、当時を振り返ることができます。
という本質的な問題点が解るようになってきました。
創始者のジョージ・グッドハートはすでに亡くなっていますが、世界中から膨大な資料を集めて、それを筋力テストで再構成して集大成したものがAKです。
AKは、カイロにおける上級レベルの範疇に入っていますが、対症療法であることは間違いありません。
これだけでは根本的な解決には至らない可能性がある、という視点が明確になったのです。
私がカイロプラクティックの専門学校に入るきっかけとなった「AK(アプライドキネシオロジー)」の限界もまた、見いだせるようになってきたのです。
- つづく2017年5月22日記