≪ 肩の痛みと原因 その8 ≫
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抑制弱化筋の存在が無くても、左右差があり 身体が「非対称」となっているケースが在ります。
この図では、右側の筋は正常なのですが、左側の拮抗筋が「過剰発達」のために、骨格がゆがんでしまうのです。
これは―――肩において スポーツ選手に典型的に現われます。
肩の三角筋を例にして 説明します。
三角筋は 上腕骨に付着しますが、肩(鎖骨と肩甲骨)への付着は3箇所に分かれます。
ベンチ・プレスやショルダー・プレスなど、肩のエクササイズの大半は、三角筋の「前部」「中部」の筋線維に 刺激が集中します。
多くのスポーツ選手は、筋トレをやりますので、結果的に 肩の前部と後部の筋アンバランスが生じてしまう例が 多くあります。
肩後部のエクササイズを行っていても、実際には この肩の前部と後部の筋力差は大きいものです。
さらに、 通常は「肩後部を強化するエクササイズ」を運動プログラムに組み込んでいる例は、ひじょうに少ない―――というのが実態です。
その結果―――筋アンバランスの状態に 陥ります。
これが、肩の「痛み」を誘発する構造的な原因ともなります。
もうひとつ、スポーツ選手などにみられる筋アンバランスがあります。
それは―――機能的非対称性(機能的な筋アンバランス)です。
テニス・プレーヤーは、一流選手でも 右利きのアスリートは、通常の右側の肩甲骨周辺の筋が発達しており、左右の肩甲骨ではアンバランスが生じています。
しかし、彼らの体軸は安定しています。軸が崩れないのです。
それは―――エネルギー循環は正常であり、正常に機能しているからなのです。
筋の発達において、左右差や、拮抗筋との筋力差があっても、正常に機能している場合には―――機能的非対称性といって、問題はないのです。
これを説明すると 難しくなりますが―――
100Mスプリンターの世界記録保持者ウサイン・ボルトは、普段は『左短下肢』を示していますが、スプリント中は『右短下肢』です(右脚と左脚の左右の長さは異なります)。
降臨してゾーンに入っているときのタイガー・ウッズは、『左短下肢』を示します。しかし、決して体軸はくずれません。
イチローは 普段は『右短下肢』ですが、バッターボックスに入って、降臨状態になるときは、『左短下肢』に切り替わります。
なぜ、そうなるのか?―――説明可能ですが、推測の域を出ませんので、省略します。
機能的非対称性とは―――以下、説明します。
多くの一流アスリートに見られる現象です。
トップ・スピードで走り込む練習を繰り返すと―――『スピード・バリヤー』が形成されて、今以上に速く走ることができなくなってしまいます。
神経‐筋が、そのトップ・スピードの動きを固着してしまい、それ以上のスピードを出せないように働いてしまうメカニズムが、身体にあるためです。
したがって、トップ・スピードでのスプリント練習は、そのスピードを身体に覚え込ませることになってしまいますので、一流スプリンターは、そのような練習は繰り返さないのです。
では、どうするのか―――
彼らは、「坂道を走り降りる」とか「バイクに身体を引っ張ってもらう」などのオーバー・スピード・ドリルや、
「ダッシュを繰り返す」 あるいは「坂道を駆け上がる」「リラックス走」を行うなど、常に スピード・バリヤーに陥らないようにしているのです。
このことは、「バッティング・スピード」「格闘技の蹴りや突きのスピード」など、様々なスポーツ動作にも当てはまります。
よく「素振り」などを 一流選手は人の数倍もやった―――などの伝説として語られますが、スイング・スピードは これによって頭打ち状態に陥ってしまったはずです。
実は―――
このスピード・バリヤーを打ち破るのが、『機能的非対称性』なのです。
この場合、筋のアンバランスを バランスがとれるようにしてしまうと―――スピード・バリヤーに陥りやすい、ということが解っています。
だから、常に視点は―――体軸がとれているか否か というこの1点に向けられるのです。